絵の具の情報が書いてある絵の具本体とカラーチャートの見方について解説します。
各社で表記の揺れはありますが、書いてある項目としては大体同じようなものです。今回は、一番よく見かけるホルベインの透明水彩絵の具を例に挙げながら解説していきます。
(*文献から独学で学んだ内容が多いため、間違っている部分もあるかもしれません。ご了承ください。)
カラーチャート
ホルベインのカラーチャートです。そのメーカーのシリーズでどんな絵の具を作っているのかが分かります。画材屋さんに置いてあったり、インターネット上でもデータを手に入れることができます。
チヨチヨ♪(カラフルできれい!)
チ…(あれ、でもこれって…)
キャルルル(色が本物と全然違うよ!これじゃ役に立たないんじゃないの!?)
そんなことないよ!
印刷したものなので色はさすがに本物と一緒ではないけれど…、
カラーチャートには重要な情報がいっぱい詰まっているんだよ。
同じ色? 違う色?
カラーチャートを見てまず目につくのは絵の具の名前。
絵の具の名前はたくさんあります。メーカーごとに同じ名前でも違う色、違う名前でも同じ色の場合があります。
例えば、このホルベインの「シャドーグリーン」(左)と、ウィンザー&ニュートンの「ペリレーングリーン」(右)。違う名前でも、色はほとんど一緒ですよね。
逆に、このホルベイン(左)、ウィンザー&ニュートン(右)の「キナクリドンレッド」をご覧ください。同じ名前でも、全然色が違いますよね。
キャルルル!
(分かりにくいよ! もっとわかりやすく色を見分ける方法ってないの!?)
あるよ!
そこで注目するのが顔料(絵の具の色をつくる原料)!
顔料(絵の具の色をつくる原料)に注目!
絵の具のチューブに「pigment[C.I.NAME:」PV 19]のように書いてあるPで始まるアルファベットと数字が顔料(絵の具の原料)の種類を表しています。(C.I.はカラーインデックスの略称で、海外の色材データベースのことをいいます)
Pは英語で顔料を意味するpigmentの略称で、そのあとのアルファベットはRはRed(赤)、GはGreeen(緑)、Vはviolet(紫)のように色の略称がつけられています。ちなみに、Blue(青)、Black(黒)、Brown(茶)はどれも頭文字がBのため、青は「PB」、黒は「PBk」、茶色は「PBr」と表記します。
その後の数字は通し番号です。1924年から始まったカラーインデックスのデーターベース登録の古いものから順に数字がつけられています。
つまり、PV19は紫の19番目の顔料、PR209は赤の209番目の顔料ということです。同じ絵の具の名前でも色が違うのも納得ですね。
両方とも色味は違いますが、基本的な構造の骨格は同じでキナクリドン系の顔料になります。PV19の方は紫に分類されてはいますが顔料自体の通称でキナクリドンレッドと呼ばれることも多いようです。PR209の顔料自体の通称は不勉強で見かけたことがないのですが、絵の具の名前がキナクリドンレッドになっているメーカーも複数あります。ややこしいですね。
混合顔料と単一顔料
顔料を複数使っている絵の具もあります。(混合顔料などと呼ばれます)
混合顔料の絵の具は、1つしか使っていない絵の具(単一顔料)を合わせればほぼ同じ色を作ることができます。
「全色は買えないけどまずはいくつか買いたい…!」というときはまずは単一顔料の絵の具を買ってみるのもいいですね。
勿論、混合顔料の絵の具も便利できれいな色が多いので、気になる色は単一顔料の方を持っていてもぜひ試してみることをオススメします!
ピッポポッポ♪(絵の具の色のことに詳しくなっちゃった!)
…ピ?(あれ?)
キャルルル!(違う色でも、同じ顔料のものがあるよ! やっぱり、ややこしいよ!)
顔料は奥が深い<結晶多型>
同じ顔料の表記をしていても色が違うことがあります。
こちらの青色2色は顔料は化学的には同じ「PB15(銅フタロシアニンブルー)」でできていますが、片方は赤みのある青色でもう片方は黄色みのある青色です。違うのは結晶構造で、PB15は結晶構造の違いでいくつかα型、β型、ε型…と更に分けることができます。(これを結晶多型と言います)
構造が違うと性質が変わるのが奥深いですが、身近な結晶多型の例でいうと「ダイヤモンド」と鉛筆の芯である「黒鉛」が挙げられます。2つは同じ元素「C(炭素)」からできています。違うのは結晶の構造だけです。結晶の結びつき方で硬くてキラキラのダイヤモンドになったり、柔らかく真っ黒な鉛筆になるのが面白いですよね。
ホルベインのカラーチャートにはPB15の違いは記載されていませんが、メーカーによっては「PB15:3(β型、黄色味がある方)」「PB15:6(ε型、赤みがある方)」と更に結晶多型について書いてあることもあります。
PB15の違い(黄色味のある方、赤みのある方)はどの絵の具メーカーもあるので知っておくと便利ですね。
顔料は奥が深い<結晶粒度>
同じ顔料で色が違うシリーズその2としてPR101(赤色酸化鉄)を紹介しようと思います。
この色味の違いは、結晶自体のサイズの違いから生まれるものとなります。サイズが小さければオレンジがかった赤色に、大きければ紫がかった赤色になります。
ホルベインでは紫がかった方のPR101の単一顔料はありませんが、W&Nでは「キャプトモータムバイオレット」という単一顔料の絵の具が存在します。赤い方のPR101より、明らかにざらざらした塗り心地からも粒子の大きさを感じることができるかもしれません。
余談ですが…、Fe(鉄)にO(酸素)がついていたら「酸化した鉄=酸化鉄」です。しかし、一口に酸化鉄と言っても鉄一個あたりに酸素が何個付くかで性質が変わります。
鉄が錆びたときのいわゆる「赤錆び」はFe2O3 (鉄:酸素=2:3)です。先ほど解説したPR101もFe2O3の酸化鉄です。色味に差はあれど、確かに赤錆びのような赤みがかかった茶色でしたね。
一方、鉄製のフライパンは日ごろ水につけたりするのに赤く錆びたりせず、真っ黒ですよね。あのフライパンの表面は実はすでにFe3O4(鉄:酸素=3:4)という「黒錆び」の状態になっています。
こちらはぼろぼろにする赤錆びと違い、強く鉄らしい性質を保つことのできる状態です。すでに酸素と反応しているため、黒錆びしている鉄は赤錆びになることはありません。黒錆びと同じ酸化鉄の顔料はPBk11です。確かに黒いですね。
顔料の名前からだけでも分かることがたくさんありましたね。化学や物理が好きな方なら雑学としても楽しい内容だと思います。
バサッ(画材屋さんでカラーチャートをもらってこようっと!)