以前からの悩み:画面をキラキラにしたいけど…
前回の記事で、透明水彩技法を生かしながら画面全体にキラキラ絵の具を塗るために塗る順番や絵の具の種類を実験しました。
キラキラ絵の具を先に塗ると紙の性質が変わって塗り心地が悪くなりました。最後にキラキラ絵の具を塗るとしたの絵が溶けてしまいました。
どうしたら画面全体をキラキラさせられるのか困っていたのですが…、なんと下の絵の具を全く溶かさずに後からキラキラ絵の具を重ねる方法を見つけてしまいました。
下の絵の具を溶かさない方法を発見!
青い絵の具を塗り、乾いた後にキラキラ絵の具を塗り重ねました。
(紙:ウォーターフォード中目、キラキラ絵の具:ホルベイン透明水彩・シルバー(PW20))
この時にキラキラ絵の具を水ではなくエタノールで溶かして塗ると…この通り!
ポッチーヨ!(すごい! 全然違うね!)
すごいよね! 私も最初に試したときに感動しました。
水の代わりにエタノールを使う
消毒用でおなじみのエタノールは水のように無色透明の液体です。このエタノールで絵の具を溶いて塗ったのです。(エタノール使用の際は安全に気を付けて使ってください。注意事項は次の項目にあります)
エタノールは薬局などで購入することができます。一口にエタノールと言っても、似たような名前の商品が並びます。それらの名前の違いはエタノールの純度の違いで分けられます。
名称 | エタノール濃度 | 備考 |
無水エタノール | 99.5%以上 | エタノールを精製して作る一番濃度の高いエタノールで、水が無い分速攻で揮発していきます。濃度が高すぎて刺激性もあります。 濃度が高い分価格も高いですが、ここまでのものを使う必要なはないと思います。 |
エタノール | 95~96.9% | 一般的な純粋エタノールです。 |
消毒用エタノール | 76.9~81.4% | 消毒時に一定時間揮発せず残るように水が少量入っています。 一番手に入りやすいですし、この濃度でも特に問題はなかったです。 手指用のもののなかには保湿用にグリセリンや、消毒用に次亜塩素酸ナトリウムなどの添加剤が入っている場合もありますので、添加剤がないものを選んでください。 |
IP(イソプロパノール)と併記される場合 | 上記濃度のどれか | 安価にするためにIP(イソプロパノール)を少量加えたもので、濃度や基本的な性質は上記のどれかになります。 エタノールと水の混合物は飲用可能なため酒税法の対象となり課税されています。しかし、IPを添加することで飲用ではなくなるため、酒税がかからない分安くなります。IP入りでも下の絵の具を溶かさないという用途では差は見られませんでした。 IPはエタノールより刺激臭が強いので、苦手な方は避けてください。 |
今回のようにキラキラ透明水彩絵の具を溶くためにオススメなのは、安価な消毒用エタノールです。あまりにエタノール濃度が高いと透明水彩絵の具が溶けなかったので、結局水を添加することになりましたので、濃度の高いエタノールである必要はありません。
IP入りの方が安価で、個人的にはオススメです。一方で、X(旧Twitter)で、「IPは脱脂作用と金属腐食が強く筆や金属パレットを痛める懸念があります」とおっしゃる方もいました。
IPのSDS(職場のあんぜんサイト参照)を確認したところ、エタノールには無い「高温においてアルミニウムを腐食する」「脱脂作用」との記載がありました。
私の手持ちのケンエーの消毒用エタノールIPには3.7%のIPが添加されています。この濃度の場合、どの程度エタノールより脱脂作用とアルミニウム腐食作用が強くなるのかは分かりませんが、気になる方は筆や物品にかかることがないよう使用時に注意されるといいと思います。
キラキラ絵の具をエタノールで塗る方法
①絵の具を水で溶く
チューブから出したばかりの絵の具や、固まった絵の具はエタノールでは均一に溶かすことが難しかったので、まず水で溶かしておいてからエタノールと混ぜるようにしてください。
80%エタノールの場合、水で溶かした絵の具:80%エタノール=10:90で混ぜると下の絵の具を溶かさず塗ることができました。
②紙に塗る
筆で塗ることもできますし、霧吹きスプレーを使って全体に噴霧することもできます。エタノールでは絵の具が溶けないと言っても、筆で執拗に擦ったり紙の上で液体が溜まるほどの大量の液体を使うと絵の具が溶け出してしまいましたので、スプレーを使うのがオススメです。
スプレーを使う場合は、吸い込んだりしないように注意したり、思わぬ方向へ飛散させないように気を付けてください。
エタノールは水より紙に浸透しやすいので、すぐに裏まで染み込んで一時的に紙の色が暗く見えます。乾けば元通りの色になるので安心してください。
エタノール使用時の注意点
エタノールは引火性がありますので火気に気を付けて、商品の説明書をよく読んで使ってください。
エタノールを使用した場合に、絵に悪影響はないのだろうかと心配される方もいますよね。自分が実験した限りでは、一度乾かした後の透明水彩絵の具に後からエタノールをかけた場合に変色したり、紙が変色したりというものは見られませんでした。絵の具の顔料は基本的に安定な構造になっていると思いますので、大丈夫なのかなあと勝手に思っています。
また、エタノールで手荒れを経験された方がいるようにエタノールには脱脂作用があります。エタノールに添加されるIPはより脱脂作用が強いです。高価な動物毛の筆を使用されるのは避けた方がよいと思います。
画材との組み合わせが心配な方は、絵を描く前に試し塗りしてみることをお勧めします。
アクリル絵の具は塗ったあとにエタノールをかけると絵の具が溶けだしてしまうため注意が必要です。(アクリル絵の具に使われる樹脂がエタノールに溶けやすいためです)
また、ニスなどの保護剤や、アクリル板もエタノールで溶けたり変質する可能性が高いです。(消毒用のエタノールで拭いてしまい家具のニスや床のワックス、アクリル板を変質させた経験があります)
ニスやアクリルなどが画面に触れるのは作品完成後だと思います。エタノールは乾けば画面には残らないので、完全に乾いたのを確認してから、保護用ニスの使用やアクリル板額装をしてください。
キラキラ絵の具以外をエタノールで溶くと?
今回はキラキラ絵の具を塗るのを目的にエタノールで透明水彩絵の具を溶きましたが、他の絵の具ではどうでしょうか。また、マスキングインクとも併用できるのか気になりましたので試してみました。
エタノールで絵の具を溶くことはできますが、エタノールは紙の内部にまで浸透してしまうため、絵の具の色も紙の内部に浸透してしまい色が沈んでしまいました。(サイジングが効いていない紙に描いたみたいになってしまいました)
マスキングインクを塗ったところにエタノールを塗っても、マスキングインクが変質することはありませんでした。しかし、マスキングインクは紙の表面を覆って下の紙を保護するのに対し、エタノール絵の具は紙の内部に染み込むため、マスキングインクの下から紙を伝って滲んでしまいました。
エタノールで透明水彩絵の具を溶くことはできますが、水で溶いた方が明らかにキレイで使いやすいので、着色用にエタノールで透明水彩絵の具を溶くことはほとんどないかと思われました。
原理の考察
なぜ、エタノールなら下の絵の具が溶けないのかについて自分なりに少し考えてみました
バサッ(文鳥さんは難しい話は分からないから、じゃあね!)
あ…、じゃあね
仮説:アラビアゴムがエタノールに溶けないから?
透明水彩絵の具に使われているアラビアゴムは、顔料(色の付いた粒子)を画面に接着させる役割を持っています。アラビアゴムは水に溶けやすいため、固形の絵の具を水で溶くことができて便利な一方、紙に塗った後でも水で溶けてしまいます。
しかし、アラビアゴムは水には溶けますがエタノールにはほとんど溶けない性質を持っています。そのため、絵の具を塗った上にエタノールを塗っても、顔料を接着しているアラビアゴムが溶けださないので色の付いた部分が溶け出すことはないのではないでしょうか。
仮説:エタノールは紙表面にとどまらないから?
別の仮説としては、エタノールは表面張力が低くすぐに紙の内部や裏側に浸透しながらも速攻で乾くためではないでしょうか。。水で絵の具が溶けてしまうときによく観察すると、紙の表面に長時間水が残っていてそれが蒸発するまでの間に絵の具が少しずつ溶け出していくのを観察できます。
絵の具が乗っている部分は紙の表面ですので、エタノールのようにすぐに浸透して揮発すると紙の表面に液体が長時間溜まらないので絵の具が溶け出すこともないのかと思います。
他にも、エタノールの使い方次第では面白い表現ができます。
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